「若きウェルテルの悩み」(ゲーテ)①

なぜウェルテルは自殺しなければならなかったのか?

「若きウェルテルの悩み」
(ゲーテ/高橋義孝訳)新潮文庫

ウェルテルが舞踏会で知り合った
美しい女性ロッテには、
すでに婚約者が決まっていた。
実らぬ恋と知りながらも
ロッテに心を惹かれる
ウェルテル。
一度は身を引いたものの、
新天地での仕事に
行き詰まった彼は
再び舞い戻り…。

これまで何回読んだでしょうか。
学生時代に読んだときには
内向的青年の
哀しい恋の物語と思っていました。
太宰にはまっていたせいもあり、
なおさらウェルテルに
屈折した青年像を
見いだしていたのです。

なぜウェルテルは
自殺しなければならなかったのか?
歳をとった今読むと、
それ以外に彼のとるべき道が
なかったことに気付かされます。

死を避けられなかった
一番大きな要因は、
人と上手に交わることのできない
彼の性格でしょう。
彼はロッテを忘れるために、
職を得て任地に向かいます。
もしそこで成功していたら、
彼は伴侶となるべき女性を
見つけ出すことも
可能だったと思うのです。
しかし彼は周囲との衝突を繰り返し、
故郷へ戻らざるを得ませんでした。

でも戻ってきてみれば、
すでにロッテは
アルベルトの妻になっていた。
ロッテだけしか見えていない
ウェルテルにしてみれば、
それは自分の居場所の
完全なる喪失を意味していたのです。
それでもロッテのことが忘れられず、
何度も会いに行く。
この視野狭窄的な愛情も、
自らを追い詰めていったのです。

では、諦める以外に
どんな方法があるのか?
作者は他の登場人物を使って
可能性を模索しています。

一つは叶わぬまでも
思い切って告白するということです。
同じようにロッテに恋した書記は、
それを行った結果、免職となった上、
精神に異常を来しています。
もう一つは腕ずくで思いを遂げる
(もちろん犯罪ですが)というもの。
恋い焦がれた女主人に
それを実行した作男は、解雇された後、
殺人を犯し破滅しています。
作者ゲーテの示したこれらの選択肢を、
ウェルテルが選ぶことは
できないでしょう。
それどころかこの2つの事例が、
彼に死を迫る結果となったのです。

現代の知見をもとに考えると、
ウェルテルは
「発達障害的な傾向が多分に見られる」
ということになるでしょう。
でも、それ以上に、一人の女性を
一途に愛してしまったウェルテルの、
純真な魂に共感したいと思うのです。

(2019.10.10)

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